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みんなのいろいろ2023.09.29Kのこんなデザイン見つけた!|フィールドワーク編
退屈を捨てて街に出よう
街歩きイベントへの参加がここ最近のマイブームです。
愛知県名古屋市は何もないという評価を世間からは受けがちですが、とんでもない。
視点を変えれば本当に面白いものこそ街の随所に紛れていることがよく分かります。
それは都市とそこに暮らす人達とで積み重ねた歴史により熟成された芳醇な香りをまとっているように思います。
ということで、今年も毎年恒例の『やっとかめ文化祭DOORS』に参加してきました。
本開催は10/28から(ブログ執筆時は9/29)なのですが、一足先にプレイベントが7コース催され、その内の『観音さまが見守る道徳から名古屋初の水族館へ〜100年前の理想郷を歩く』コースに強く興味を惹かれたので参加しました。丘に上がったクジラに進路を取れ
今回の街歩きイベントの拠点となったのは名古屋市の道徳。おそらく初めて降り立った地でした。
集合場所である道徳駅は装飾性を配した簡素な造り(失礼!)で周辺も静かな佇まい。ですが、この何でもない様子に逆に期待感をそそられました。
まずは私的に一番に見たかったソレを目指し、ツアー一行の足が向かったのが道徳公園。
大正14年に徳川家より分譲された土地の一部が公園として整備され、昭和2年に竣工。96年前です。すごい!
ソレは公園敷地の中心あたりにありました。
じゃじゃん!実物大の背美鯨を模したクジラ型噴水施設(会いたかったよぅ!)
100年近く、このクジラはここから激動の時代の移り変わりを、つぶらな瞳で見守り、また数えきれないほどの人たちに子供時代の記憶の一部として刻まれてきたのでしょうね。
とても感慨深い心持ちとなります。
今でこそ干上がったかのような窪地に置かれた彫像のように見えますが、昔はプールとして活用されたそうです。
令和3年10月に登録有形文化財として登録。
ちなみに、制作者はコンクリート彫刻家の後藤鍬五郎。東海市聚楽園の大仏像も彼の手によるもの。名古屋の道徳はコンクリ製の観音様に見守られる街だった
クジラにサヨナラを告げて、街歩きを再開。
かつて道徳公園の敷地と隣接するように、南側の土地には映画の撮影所があったそうです。
京都のマキノ撮影所が手狭となったことから中部撮影所として、日本映画の父と言われたマキノ省三が撮影所として昭和2年から使用。
8本の作品を制作した後に不幸なことにマキノ氏による失火をきっかけに撤退、別の撮影所へ譲渡されるなどの紆余曲折を経た後に撮影所としての使用は短命に終わり、建設から僅か数年で閉鎖(Wikipedia)
同敷地に後に建てられた中学校の横を通りから眺めつつ、かつての痕跡も何も残って無いけれども、ここは当時は華やかな映画スターが行き交う場所だったのだなと思うと夢の中の出来事のようで、少し物悲しい気分になりました。もののあはれなり…。そこから住宅街へ移動して、不思議な区割りの町並みを実際に歩いて体感。
史実としては実施されなかったものの遊郭地としての計画があったそうで、それを前提にして土地が区画整理されたようです。
(明確な資料が残されていないので、全て推察の範囲としておきます)更に歩を進めた先で違和感を持った路地のT字路。
説明によると今はもう跡形も無いですが、ここにはかつて道徳観音山(昭和5年竣工)と呼ばれた人口山の行楽施設があったとのこと。コンクリート製の躯体の上から土が盛られた山の高さは13メートル。観音像が立つ頂上からは道徳の町並みが展望が出来たそう。
中は上下二層構造になっていて、2階はダンスホール(計画のみで中止)、1階はアイススケートリンクに喫茶室。
麓には池のようなプールが設えられていて、13メートル上の頂上から滝のように水が注がれている当時の写真も残されています(Wikiに写真あり)
道徳住民には憩いの場所であり信仰対象にもなっていましたが、昭和39年に管理会社からの事前説明もないままに突然に解体。このあと、ツアーは港にあった跳ね橋の痕跡や明治の終わり頃に造られた名古屋教育水族館跡地を見に行くのですが、ここでは割愛します。
街に歴史あり。
今、この時代に生きている私達の足元にも、かつて何かがあったわけで、知らないままに過ぎ去っただけで、きっとたくさんの事が歴史のはざまに埋もれている。
痕跡さえも無くなったとしても、こういった逸話をパズルのように拾い集めて後世に残す語り部が居るからこそ、拡散してまた未来へと繋がる。
歴史はそうやって残されていく。
今回がその好例だなと、道徳の街歩きを振り返って思いました。今回ツアーに参加した際に道徳が公式に作った記念誌が配られました。
街の住人達による証言や秘蔵の古い写真も沢山掲載されていて、とても資料価値の高い本となっています。
道徳学区連絡協議会により編集・発行された、誰もが入手できる本ですので機会がありましたら手にとってみてください。〈writing:兼松〉
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